合唱の夕べ 挨拶文

2021年12月に行われた国立音楽大学伝統の合唱発表会「合唱の夕べ」。そのプログラムに寄せさせていただいた挨拶文をこちらにも掲載します。

僕の授業の学生である教職過程の履修生に宛てたものです。

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2021 合唱の夕べ 挨拶文

 パンデミックによる教育のオンライン化は、インターネット上のヒーローたちを学校のライバルにしてしまいました。

 かつては格別に魅力的な授業を行うプロの教師は予備校という有料の壁の向こうにだけいるものでした。しかし今、YouTube上には面白く、効率よく、かつ正確に、数学、英語、社会や歌までも教えるユーチューバーが溢れています。面白いと思えばこどもの脳は何倍もの吸収力で学ぶものです。そういう学びが無料で得られるその同じ画面で「学校が配信する授業の方を見てください」というのはいかにも理不尽な要請であることに、子どもたちは気づき始めています。ユーチューバーたちにとってそれが自分のビジネスのためだとしても、彼らほどに日々自分の授業を魅力的なものへと磨きあげることに情熱を注ぐ学校教員は多くないからです。

 では、学校は存在価値を失ってゆくのでしょうか。いえ、そうなるべきではありません。ネットの世界には人と人とが触れ合って生まれる出来事、温度、匂い、先生や友達との関係、淡い(?)恋愛、ケンカなど、体験を通して学ぶ人との関わりがありません。そういう経験をせずにこどもたちが大人になって社会を作るとしたら、それは恐ろしいことだと思えます。

 知識の量や効率だけなら学校よりもインターネットがはるかに優れている今、学校には、こどもの成長に「体験を与える場」としての再定義が必要だと感じます。そして合唱こそ、そのリードをとる体験となるべきでしょう。

「今日はみんなと歌えるから学校に行こう」と、こどもたちに思ってもらえる授業を学生たちには展開してもらいたいのです。「日常でもっとも楽しい歌体験」のスポットをカラオケに取られている場合ではありません。

 人が集まって共に歌うことは、原始から人間に与えられている生存のためのツールです。学生たちにとってこの合唱の時間が最高に楽しい時間であること、そして彼ら/彼女らがいつか教壇に立つなら、「楽しいから分かち合いたいんだ!!」と生徒たちに言える合唱の授業を展開できることを、心より願います。

木島タロー

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