挑む・オールスター合唱バトル3

よくぞこんなことになったものだと、収録会場を眺めて感嘆するばかりだ。20名×7合唱団、総勢140名の芸能人たちが合唱をする。この冬に3弾目がオンエアされるフジテレビの超大型特番、オールスター合唱バトルの収録が10月、行われた。

制作上のご相談を受けてからこの規模に育つまで、たった1年半しか経っていない。最初は2チーム40人、2回目は5チーム100人と成長してきて、今回の7チーム140人。

引き続き指導と編曲をさせていただいた。

今回、収録はカメリハも合わせて2日間におよび、放映時間も3時間となる。

もちろん楽な仕事ではない。まず何よりきついのは制作期間の短さだ。最初の曲名の打診をいただいてから2ヶ月強の間に14曲のアレンジを仕上げなくてはいけない。そんなペースで作業をしたことはないが、大学の時に和声学の先生が通勤電車の中で授業用の課題曲を1曲書いたとか言っていたのを思い出しながら奮い立つ。

チームごとの個性が活き、歌い手ごとの個性が活き、それでいてオーソドックスな合唱の価値にものっとりつつ、かつ斬新で、元の楽曲の魅力を崩さず、心を合わせるピークをもち、全てのチームが優勝を狙えるだけの感動をもち、それでいて、重要なことだが、未経験者が1ヶ月の訓練で仕上げなくてはならない。これらが合唱バトルのアレンジに必須の要件だ。

ああでもないこうでもないと悩んでいるうちに期限は迫ってくる。一曲仕上がるごとにDUCメンバーたちの協力を得てプリプロの録音をも仕上げてゆくが、その過程でもまた音が変わってゆく。楽譜と録音が一致するまでに何度もやり直しがある。

しかし実は、このアレンジと録音の過程で僕の体に音が染み付いてゆく。もし編曲はナシで指導だけ、という依頼のされ方だったら、他人の曲を学んで指導にあたる作業となるわけだが、そうなればこんなふうに短期間で曲の要点全てを押さえた指導はできないだろう。奇妙なことだが、編曲と指導の全てが一括されていることでこの短期間での作業が可能になる。

次にきついのはもちろんレッスン期間だ。週3、4回のペースでお台場に出向き、時には1日に3チーム、合計9時間にわたるレッスンがある。

ビートと地声とパフォーマンスを持った合唱全体を統括する仕事を手分けするのはかなり難しい。さまざまな理由で合唱バトルのスタイル、すなわちパワーコーラスのスタイルに限ってはタッグを組ませていただける指導者は今のところおらず、長く番組に続いてもらいたい中、合唱とポピュラーについての見識を備えた後進の育成が必須の急務となってくる。

諸々が見合った仕事かと言われると答えづらいところもあるが、そこには何ものにも代え難い価値もある。龍玄としさん(X JAPAN Toshiさん)や吉田沙保里さん、華原朋美さん、山川豊さんなど、一時代を築いたような方々にまで指導者としてご信頼をいただけることだ。自分と周りのために昼夜最大限を尽くす人生を送ってきたこの人々にさえ、合唱という新しい感動を紹介することができる、そういう仕事をさせてもらってることこそが、ここでしか得られない価値だ。

がしかし、夏、という季節が辛い。僕は物心ついた時から夏が極度に苦手だ。虫は出るし物は腐るし、子供時代を思い出してもアトピー持ちだったため汗をかくとあちこち痒くなる記憶ばかりだし、周りの男子たちが夏になるとやっている楽しそうな遊びの全ても好きじゃなかった。

合唱バトルの仕事がないとしても夏のきつさは変わらない。とはいえ、フジテレビに着く頃には体がじっとりと濡れ、さまざまな配慮からだと思うが、スタジオも十分涼しいと感じられないことが多い。また、フジテレビには数百メートル離れたところに二つの建物があるのだが、チームごとにこの間を行き来することがある。タクシーよりレンタル自転車がはるかに早いのだが、これでまた汗じっとりだ。アイドルさんの近くで指導するたびに自分が臭くないか気になるばかりだ(一体なんであの人たちは男女とも臭くないのだ?)

きついことの3つ目はピアノ伴奏譜の作成だ。書かなくてはいけない音符の数そのものは合唱よりもはるかに多い。DUCのライブならコード譜しか書かないが、学生が伴奏を行う合唱バトルではピアノ譜が必要だ。楽曲によって、単純なコード弾きでは各パートと音がぶつかってしまう可能性が高い部分があり、コード伴奏では対応できない。伴奏譜の作成は大概、レッスン期間が始まってから行う。とても伴奏譜まではレッスン開始に間に合わない。

なお、伴奏ピアニストの学生の人選も難航する。ミスタッチをせず、かつビート感について理解できている学生はごく少ない。学内で学生たちからそういう学生の噂を集めても出てくるのは大体同じ学生の名前で、そういう目ぼしいところには全て声かけ済みだ。それが今度は7人必要だという。

資料と人材が揃い、1ヶ月のレッスンを経て番組の収録へと向かってゆく。言えるもの、言えないもの含め出演者たちのドラマがある。DUCのメンバーたちが入れ替わり立ち替わりレッスンサポートに入り、これが新たにDUCの歴史にもなってゆく。

収録日が訪れ、140人の芸能人たちがスタジオの円卓に座り、誰もが、共演者たちの顔ぶれに興奮し合う。豪華なセットの中を膨大な数のスタッフが動く中、DUCも忙しく駆け回る。ディレクターのかけ声で収録が始まる。

出演者の誰もが、自分たち以外の次の一曲を聴きたくて席を離れない。

休憩中にトイレですれ違ったYouTuber のずまさんから、「合唱のアレンジ最高にかっこいいです」とお声かけいただく。

お礼を返しつつ、「そう、合唱こそ最高の音楽なんです。」と僕は内心呟く。

オーケストラの指揮者や、世界一のピアニスト達が僕に反論するかもしれないが、僕は死に際でもこう言うつもりだ。

「合唱こそ人にとって最高の音楽だ。」

人は集まって一緒に歌えればなんとかなる。そういう存在として人間は生まれたと思う。

日本では誤解され、歪み、子供達から嫌われてしまい、一部のマニア達のものになってしまった合唱の時代は終わる。この音楽の本当の価値が伝わる時代が来る。

この番組がそんな改革ののろしになることを信じつつ。

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