神話の国・山陰紀行1 津和野→益田

6年ぶりの家族旅行。場所に島根を選んだ。

3回かけて、神話の国旅行をリポートしたい。


かつて仕事や観光で訪れた場所でここに家族と来たいと思ったところはいくつかあるが、それを実行したのは初めてだ。
何が理由で島根を、と明確には言えない。でも、旅をする中で自分の中で明らかになっていったものはある。

80日前に予約したお得な航空券で、石見空港へ。この空港は1日2便のANA便のために運営されている。ここから、バスで益田まで移動する。

島根に来るとまず、赤い瓦の街並みに魅せられる。新しい家も今にも崩れそうなほど古びた木造家屋もみな、輝く赤い瓦を頂いている。見渡す6割くらいの家が、この赤い瓦だろうか。赤瓦、もしくは石州瓦と呼ばれる地域の特産で、温度を高く焼くため特に雪に対して耐久性が高いのだという。
この街には、田舎だが、何かの知性のようなものがある。静かな誇りを宿した田舎、といった空気があるのだ。後で思ったが、遠い遠い昔の「都(みやこ)の記憶」が人々の心の底に凛と生きているのではないか。

初日夜は、僕やDUCを島根でのワークショップに招いてくれた恩人たち(Special Thanks: 中村さん、寺井さん、光野さん、久美子さん)と会って、会食。改めて、この愛と誠意とユーモアに溢れた方々との出会いに感謝。

翌朝、レンタカーに乗りこんで、古都、津和野へ。日本三大稲荷を名乗る神社を頂く、1000年の歴史を持つ古い町並み。鯉が溢れるほどに泳ぐ水路と日本有数の清流。お稲荷さんへ向かう参道で娘にカメラを渡すと、写真を撮りまくった。
お稲荷さんの「城下町」と言えるこの町の中心には昭和6年築のカトリック教会が建つ。訪れる人々のいくらかは、ここで手を合わせ、お稲荷さんに登ってそこでまた手を合わせる。これをアメリカ人の友人たちが見たら何と言うだろうか。

実はこの街にはキリスト教殉教者の歴史がある。徳川幕府のキリシタン弾圧のもとで、当時のクリスチャンたちが改宗を迫る拷問にあったのだ。
違う信仰を持つ者を拷問したり殺害したりするような、今日のISのような野蛮さを、数百年前は日本人も確かに行使していたのだ。しかしながら、日本では伝統的に神と仏が共存してきて、宗教の衝突という概念が薄かったはずだ。そもそも日本人にとって宗教とは、それに「属する」質のものではない。野蛮さの言い訳にはならないものの、「教徒になったら、他の宗教は間違いとして否定する」というキリスト教の信仰のスタイルが、異教の衝突が理解できなかった日本人にとってあまりに危険なものに感じられたとしたら、それは理解出来る。SONY DSC
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今はこうして、稲荷神社の麓に堂々とカトリック教会が鎮座し、町のランドマークだ。近代日本が手に入れた(あるいは「取り戻した」)価値観の違うものを受け入れあう姿がここにある。僕はこの日本人の姿を、「誇り高きちゃらんぽらん」と呼んでいる。

ちなみに、この街の景観が多分条例か何かで守られているのだろうと思う中で、二つほど、この町に建っているべきではないと感じさせる古いビルがある。きっと条例の制定に間に合わなかったか、もしくはそれらのビルのせいで条例が制定されたのだろう、などと感じた。

益田市へと戻る際に、奇妙なものを目にした。ラーメン/うどん、と書かれた自動販売機だ。どう見ても美味しいものが出てくるとは想像できない。だが、これも旅の楽しみと一杯買ってみる衝動に耐えられず、購入。

 というわけで、意外にも食べられた。
しかし、僕の前にうどんを買ってみたらしい男性は食べずに全てゴミ箱に放り込んでいた。

 その後ふと、コンサートホール「グラントワ」に立ち寄る。壁面がびっしりと石州瓦で覆われたコンサートホールの姿は圧巻だ。仏界庭を思わせる庭に鎮座するのはどこか愛嬌のある「おろち」の像。日本の神話に基づき、おろちとは「楽の音に乗れば一瞬にして天に駆け昇るエネルギーを秘めている、創造の自在神」との説明がある。

 

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 キリスト教においては、蛇はイブをそそのかした悪として捉えられるが、僕は少しロマンを持ってこの生き物を見ている。キリスト教において蛇は、「エデンから人間とともに落とされてきた存在」じゃないか。つまり神話の時代からの人間の盟友と言えるのではないか。神話の国、島根ならではのおろちの姿に、西洋ではおとしめられた蛇が取り戻した神性を見たりするのだ。

SONY DSCこの時電話がなり、ワークショップのご依頼だった。ゴスペルミュージックへの誠意と日本人的な信仰スタイルのバランスに関して学びたいとのことで、喜んでお引き受けした。奇遇なものだが、この土地の持つ神秘の空気と関わりがあるように感じる。

続く。
神話の国紀行2は、 浜田→松江。

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