直感に引っかかった人に話しかけることで、愉快な出会いになることがある。
旅をすると、よくそういうことを経験する。
大津の翌日、貴重な京都の滞在時間に僕が選んだのは、中心街から電車で乗り継ぎ3回をかけ1時間離れた「鞍馬山」。
牛若丸と天狗の由来の寺だ。
大門をくぐり、自然豊かな山を奥へ奥へと登って行く。これは立派なハイキングだ。
街から離れているからか、土曜でも人はまばらだ。
出雲の時に似た、手からチリチリしてくる感覚がある。
数々の社を経て、本堂での祈祷を後ろから見せていただく。そこで知ったのは、この山全体に散らばる社で祀るものは、光たる太陽、愛たる月、力たる大地、の3つの神性だという。
なんだか、伝統的な寺で聞く話とはおもむきが違う。
奥の院へと向かうさらに急で細い道へ。途中、大杉権現(写真)という樹齢を経た杉の木を祀る森の中の社で、外国人の男性を見かけた。京都なので他にも外国人には会ったが、彼は一人旅のようで、社を見つめる目が真剣だった。日本人ではありえない大きな鼻をしているのに、なぜかその瞬間には外国人かどうか一瞬判別がつかず、Hiといったものか軽く会釈したものか、わからなかった。声はかけず、僕は順路を進んだ。
さらに山奥へと進むと、650万年前に金星から降り立った存在を祀っているという魔王殿と呼ばれる場所についた。この存在が力と大地の顕現であるという。なんだかますます、京都の由緒ある寺で聞く話とも思えない。
自然管理に徹底した気を使っているという鬱蒼とした山奥だが、そのよく整理された空間では何人かが休んでいた。拝殿の中に、教会のようなベンチがあったため、僕はそこで10分間座って休憩がてらに瞑想をさせてもらった。その間も何人かが鐘をついて拝んで行く。
かけておいた10分のタイマーが鳴って拝殿の外に出ると、ベンチに例の彼がいた。手に英語のガイドブックを持っていたので今度こそ外国人と分かった。物腰からして冷静で、何か思慮深い人だと感じた。僕は、ここに来る外国人の宗教観に興味があったので、声をかけた。
「楽しんでる?」との会話からはじまった。彼はオーストラリア人。「レイキ」の勉強をしていてここにたどり着いたという。ガイドブックの内容についていくらか聞かれ、幾つか説明した。日本人のなんでも受け入れる特性について、少しおしゃべりをしその場で別れた。
山を登って来た時とは反対側に下ると、アスファルトの敷かれた道に人の流れがあった。貴船神社という別の神社がある。このついでに向かってはみたが、縁結びの神様ということで、若者連れやカップルで、鞍馬山の神秘とは懸け離れた雑踏を作っていた。この場は遠慮して、蕎麦屋を見つけて昼食。食べていると、窓からあのオーストラリア人が見えた。貴船神社方面に向かっているようだ。声をかけたい気分になったが、もう離れていたし、窓の開け方がわからなかったし、なぜか、また会うような気がしてやめた。
食べ終わって、帰るために駅に向かって歩こうとすると、歩いて20ふんかかることが分かった。引き返して、駅に向かうバスを待つことにする。バスは5分後だ。
バスがバス停に到着すると同時に、彼が歩いてきた。そんな気がしていたのだ。バスに乗り、僕らは隣に座った。バスは5分で駅に。駅のホームで彼は言う。「日本に来ると全てが落ち着いているように見えるんだ。西洋の国々を旅するのとは全く違う」。そして、「特に宗教活動を持ってはいないが、これまで知るところでは、仏教の言っていることが自分には一番しっくりくるんだ」という。
電車がやってきて乗り込むと、車両は二人掛けの椅子が向かい合うようになっているタイプだった。僕らは並んで座れる唯一の席を見つけ、そこに隣り合って座った。進行方向に対して反対向きで、正面には小柄なおばあさんが一人座っていた。
僕らは会話を続けた。僕は自分がゴスペルを専門とする音楽家で、この音楽と日本人の精神性とのつながりを追っている、と伝えた。彼はヨガのインストラクターで、瞑想中に何度も修験者が現れて日本のビジョンを見せるのだという。それをきっかけに、今回が初めての日本旅行だそうだ。僕は、「では出雲には行ったかい?」と尋ねた。そこに日本で最も古い歴史を持つ、最大の神社の一つがある旨を話す。彼は興味を持って、ここから近いのか、と聞くので、新幹線とローカル線を乗り継いで何時間もかかる、と説明。手で空中に日本地図を描き、出雲の位置を指した。僕らはその場でfacebookでつながり、僕から後で情報を送るよ、と伝えた。この時初めて知った彼の名は、ロブと言った。
会話は、昨日彼が立ち寄った祇園の街の話になったが、その会話の最中に僕はふと、目の前のおばあさんが持っているビニール袋に気がついた。それはなんと、出雲大社をモチーフにした島根県のゆるキャラ、「しまねっこ」の袋だった。
僕はおや? と思って袋の右下を見ると、そこに島根県が赤く示された小さな日本地図が載っていた。なんてことだ。僕はおばあさんにお断りして、このビニールを指差して話すことにした。「すみません、これ、島根の位置を刺した地図ですよね。ちょうど出雲の話をしていたので、これで説明していいですか?」と、おばあさんに話しかけた。するとおばあさんは表情を変えずに袋の中から、何か取り出した。それは出雲大社についての観光ブックレットだった。「私はまた行くから、さしあげます」と、何か申し訳なさそうな雰囲気でおばあさんは言う。お礼を言いながらも、僕とロブは目を見開いてお互いを見あった。そのブックレットを彼に渡して僕は、「島根の神々から招待されたみたいだね。」と伝えた。「神在月、10月がいいらしいよ」と僕が言うとロブは「自分は10月生まれなんだ。今度は10月に日本に来なくては」と言う。
レイキを学ぶヨガインストラクター、ロブが新しい友人となった。
ここのところ、どうもこういう感覚が冴えているような気がする。