神話の国・山陰紀行3 松江から境港

都市・松江

 夕方、県庁所在地である松江に向かうと、久々にマンションやオフィス街などのビル群を見ることになった。松江城の城下町として栄えて以来の県の中心だ。
 車で出雲から移動してきて、この松江の街の景色を見て、僕の中で音を立てるように幾つかのことがつながった。

 島根には、「吉田くん」という自虐キャラがいる。彼のイラストで紹介される島根は、痛々しくも笑える。
「47番目に有名な都道府県」
「練馬区に、人口で抜かれた..」
「二重行政とかで悩んでみたい」
「砂丘は無いって言ってんだろ!」
など。島根が栄えていないことを前面に押し出している。

そんな中、県庁所在地・松江はさすがにあるていど都会だった。松江城の城下町として栄えたわけだから、遅くとも松江藩と呼ばれた時代にはすでに島根の中心地として今日の発展を迎えるよう進路付けられていたと言える。

そのとき理解したのはこういうことだ。

 この松江からさえ40Km離れた出雲は、江戸や平安京などよりもはるかなはるかな昔、日本の”首都”だった。しかし、もし出雲がその後も首都であり続けていたらまちがいなく、今日の東京や京都・大阪のような姿になっていただろう。そうなれば、出雲が守り続けるはずの神話の秘密は、ビル群の喧騒や陰謀と正義のドラマに蹂躙されて、無残に失われていたはずだ。

 出雲という町は、この国にとって大切な何か(それがなんだかわからないが)を守り続けるために、都の座を早くに退いたのでないか。とても重要な必要があって今日「47番目に有名な県」にわざととどまっているのではないか。
 そうして出雲は、あのひっそりとしながらも誇り高き場所で、「その時」を待っているのではないか。そんな風に強烈に、僕は感じるのだ。

 翌朝は、「いずもまがたまの里 伝承館」なる場所へ。建物に入ると何人かの職人が天然石で勾玉を作っている。奥にはずらりと勾玉や天然石のアクセサリーが並ぶ。
 ムスメは天然石の貼り絵に挑戦。あとで聞くと、これがもっとも楽しい思い出の一つだという。

 ロビーでは勾玉の歴史や発掘史を展示。月、牙、胎児、巴紋など諸説あり、その形の真の意味は未だに謎のままだという。いずれにせよ勾玉は、縄文、弥生という実歴史とされる時代と、それ以前の神話の時代をつなぐ鍵なのだ。ロマンを掻き立てずにいられない。

島根 鳥取 伝承館 3 島根 鳥取 伝承館 2 島根 鳥取 伝承館 1 島根 鳥取 貼り絵

妖怪に乾杯・水木しげるロード

 さあ、この旅の最後の目的地へ。それは、県境を跨いで鳥取県は境港町。天空に昇って行くような巨大で奇妙な橋を越えて行く。
 港町なのでまずは回転寿しに入ると、お米は機械握りだったがネタがどれも東京の回転寿しとは比べ物にならないほど輝いていた。大トロ一貫100円。

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のどぐろのお寿司。2貫で120円。

 しかしながら目的地は寿司屋ではなく「水木しげるロード」。ムスメがゲゲゲの鬼太郎の大ファンであるため、最終日はムスメデイとして、この場所を設定した。しかし結果は、大人の僕も魅せられた。神話の地の最後に訪れると水木しげるの強烈な世界観が震えるほどに伝わって来る。

 通りには、とてもよくできた妖怪の彫像が並べられている。スタンプラリーや、おそらくこの商店街の商工会にだけ権利が許されたキャラクター商品の数々や、街をあげてのブランド管理など、勉強になることは多い。僕は鬼太郎ファンではなかったが、街の人々の鬼太郎愛もひしひしと伝わってきて、これだけ並べられれば、鬼太郎を好きでない人も恋に落ちそうだ。

 

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 水木しげる記念館も大変に印象深かった。ここで感じたものをA4で10枚のレポートにしたいくらいだがそれは別の機会にするとして、「のんのんばあ」の話に惹かれ、旅から戻ってすぐ文庫本を注文した(読み終えて、読んでから行くのだった!と、思わされた)。水木しげるの世界観の深みに、今までその作品に真面目に触れてこなかったことが愚行にさえ思えた。

 ところで、日本では妖怪と神々の境界は薄い。クリスチャンたちは勘違いしたがるが、キリスト教でいう神(God)と、日本語の神/カミは、「どの神を指しているのかが違う」のではなく、「意味そのものが違う」のだ。信仰の差より前に言語の差の問題だ(宗教問題は大概そうなんだと思うが)。


 Godは創造主のことだが、日本でいう神/カミは「上」を意味する言葉で、目に見えない世界の存在全てを指す。聖書でおなじみの「天使」や「預言者の霊」や「しゃべる蛇」なども日本語の定義の中ではカミにあたるだろうし、創造主たるGodとは違う意味だということを、日本人なら誰でもよく理解できる。貧乏神や死神なんてのもいるのだから、神と呼んだからって必ずしもそれを礼拝の対象としているわけではないんだし、それをわざわざどちらかの宗教が間違っているなんて議論をしたがるのは、無知蒙昧だと僕は考えている。

 「目に見えない世界が存在している」という事実の大切さを境港の老婆から受け継ぎ、現代にそれを発信するという仕事を確かにやり遂げた水木しげるという人を、よくよく尊敬するに至った。

 

 6年ぶりの家族旅行にお金と時間をかけた価値はとてもとても大きかった。


 日本人が何を失おうとしているのか。何を取り戻そうとしているのか。そんな思いを抱きながら歩く、何度でも戻りたい神話の国、島根の旅だった。

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