Can You Still とストークス

6月にワークショップのために招聘することとなった、師、MDストークス。

 

DUCの楽曲、 Can You Still の歌詞とストークス にはちょっとした関係がある。

 

1997年頃。僕は箸にも棒にもかからないバンドミュージシャンだった。自分の音楽性を信じてはいたが、けっきょく自分を無視して流れてゆく豊かな世界を妬んでいた。周りの人間と違う現実を生きたいと望みながら、周りの人間から認められたいと望んでいて、その矛盾が僕を嫌な人間にしていた。

 

黒人教会という場所は、僕に外の世界を忘れさせてくれた。教会では僕はそもそも異邦人であり、僕がいくら変わった人間であっても教会の彼らには全く平気だった。僕にも、僕にとって異邦人である彼らの感情がうまく読めない。人というのは不思議なもので、その方がお互いに気づかいあってうまくゆくところがある。学生の頃に聞いた「人間とイルカが仲良くなれる最大の理由は、言葉が通じないことだ」と聞いたのを思い出していた。

 

ある日、基地が手配する古いアメリカ式のバスに乗って横田から横須賀まで遠征にゆくことになった。その道のりは2時間。僕は、その頃にはすでに僕の師となっていたストークスに、何か聖書の話をしてくれないかと頼んだ。ストークスは礼拝で時折牧師の仕事をこなす、熱気のある説教師でもあったからだ。当時27, 8歳だったはずで、教会いっぱいの会衆に若きミュージシャンの彼が語りかけていたのは、今思えばすさまじいことだった。

 

僕のリクエストに、彼はふむ、と少し考え、話し始めた。

それは、旧約聖書の創世記に登場する「ジェイコブ」の話だった。

 

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ジェイコブは双子の弟で、兄のエサウのかかとをつかんで生まれて来た。長男になりたかったから、兄が先に生まれるのを阻もうとしたのだ。当時のその地域では長男だけがすべての家督を継ぐのが大原則だったが、ジェイコブは生まれつき全てを手にしようと望んだ存在だったのだ。子宮の中からさえ兄を出し抜こうとした弟は、「出し抜くもの」という意味の、ジェイコブという名前をつけられる。

 

やがて大きくなったジェイコブは、その時までに目が不自由になっていた父親のアイザックを騙し、家督を次ぐ儀式を兄に成り代わって受けてしまう。神の前での儀式が済んでしまえばそれは覆らない。かくして、長男が受けるべき祝福を横取りしたジェイコブは、兄エサウに命を狙われることになり、逃避行に出る。

 

 ジェイコブは旅の途中でレイチェルという少女に一目惚れする。レイチェルと結婚しようとレイチェルの父親のレイヴァンに挨拶しに行くと、レイヴァンは、「俺のために7年タダ働きすればレイチェルを嫁にやる」という。それでジェイコブは苦しいその条件を飲んだ。しかし7年後、やっと迎えたその初夜に、暗いテントに送り込まれて来たのは、レイチェルの姉のリアだった。朝起きてそのことに気づいたジェイコブはレイヴァンを問い詰める。

するとレイヴァンは「この土地では長女から嫁にゆかなくてはならない習慣だ。2番目の嫁としてレイチェルが欲しいならもう7年タダ働きしろ。」という。

兄と父を憎み、騙してきたジェイコブは、今度は騙される側になったのだ。そしてジェイコブは黙ってもう7年働く。

こうして結局、当時の一夫多妻の習慣にならって複数の妻を愛したジェイコブは大きな家族を築くことができた。

 

しかし年を経たある日、レイヴァンとの不仲からその土地にひどくいづらくなってしまったジェイコブは、レイヴァンから逃亡し、兄と父に謝ろうと、故郷を目指す旅に出る。その長い旅の途中でジェイコブは、夜の闇に立つ「神の化身」に出会う。

 

惨めな自分の運命を弄んで来たかのように見える神にあいまみえて、ジェイコブはなんと、その神に対してつかみかかる。「なぜ俺はいつもこうなんだ。神よ、お前が俺を “祝福” してくれるまで俺は絶対にお前を離さない!」

それが、神と対峙したジェイコブの態度だった。神は指先で軽く、掴みかかって来たジェイコブの尻に触れる。それだけでジェイコブの尻は簡単に破壊された。しかし、それでもジェイコブはつかんだ神の体を決して離さなかった。「祝福してくれ。してくれるまで離さない!」

 

明け方まで取っ組み合い、ついに疲れ切った神はジェイコブに言う。「わかったよ。お前の名前はもう”出し抜く者(ジェイコブ)” ではない。”神に勝った者(イスラエル)” と名乗るがいい」

ついに神は彼を祝福したのだ。こうして、ジェイコブは「イスラエル」と呼ばれる民の祖先となった。

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ここまで話してストークスは言った。「どう生まれついても、どんなに時間をかけることになっても、不可能な相手に挑むことになっても、自分がなりたいものになるのをやめない者だけが、それになれる。7年やって、さらに7年。お前も夢を追うわけだから覚えておくといい。」と僕に話して、彼は他の連中との話に戻って言った。

 

「またも一難去ってまた一難、やっと7年やってあと7年」その Can You Still の一節は、この記憶とStokes_Laughing、に基づく。

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