7年+7年+1 [DUC 15周年 ]

宗教、特にキリスト教などは弱い人間がすがるものだろう、と漠然と考えていた22歳の僕の脳は、黒人教会との出会いに戸惑った。人々は明るく、力強く、笑いと喜びに溢れていた。特に、のちに師にして親友となるストークスとの出会いは衝撃的だった。目が釘付けになるようなピアノを弾き、迷いなくバンドを導き、劇的な録音を作り出していた。そういう人間と宗教活動が結びついているのをみたことがなかった。

何か聖書の話をしてくれないか。

ある日、演奏に向かうツアーバスの中で、やっと覚え始めた英語で僕は彼に尋ねた。


当時から時折教会で説教をしていた彼は考えて、「ジェイコブ(ヤコブ)の話はどうかな。」と話し始めた。


ジェイコブは双子の兄の足を掴んで生まれてきた。当時は長男だけが家の富を受け継ぐため、どうしても長男になりたかった彼は兄を引きずり戻そうとしたのだ。彼が「出し抜こうとする者」という意味の「ジェイコブ」と名付けられたのはそのためだ。


双子が大きくなったある日、盲目の父親が行う財産相続の儀式に彼は兄になりすまして参加し、財産をかすめとった。でもそのことで、殺意を持った兄から逃亡しなくてはいけなくなる。


逃げついた先で彼はある少女に一目惚れする。彼女と結婚するためにその父親に挨拶しに行くと、「7年間無償労働をしたら”娘”をやろう」と言われる。


ジェイコブはその恋のために黙って働く。しかし、7年経ったところで、少女の姉と結婚させられる。「この地では姉が先に嫁に行かなくてはいけない」というのだ。
「妹も欲しいならもう7年働け」と言われ、ジェイコブはもう7年の労働をする。


ストークスはここで意見を挟んだ。


「ジェイコブは人を騙してきた。そのことは彼を騙し合いの人生に導いた」

話は続く。
ジェイコブは嫁の父親との騙し合いの末に、クタクタになって故郷への旅路に着く。


その時彼は、神の化身である天使の姿を見つける。一目見て、これが自分達の家族をずっと見てきた神その人だと気づいたジェイコブは彼に取っ組み合いの喧嘩をふっかける。
「あんたは一体いつになったら俺を祝福してくれるんだ!!」
掴みかかるジェイコブの尻を神は破壊する。そのせいでジェイコブは残りの人生を不自由な足で過ごすことになる。しかし、ジェイコブはなんと神を離さなかった。

夜明けまで取っ組み合って、それでも離さないジェイコブに根負けした神は言う。「わかったよ。祝福しよう。お前はもうジェイコブ(出し抜こうとする者)ではない。これからはイスラ=エル(神に勝利した者)と名乗るがいい。」


こうしてジェイコブは全てのイスラエル人の祖先となった。

「タロー。」
ストークスは話を終えて言った。「夢を追うとはそう言うことだ。7年やって、ダメだったらもう7年やるんだ。最後は相手が神であろうとも戦いを挑み、主張し、そのせいでどんな痛みを受けても決してやめないこと。それが夢を追うと言うことだ。」


今思えば、こんな話を僕にして聞かせたストークスはまだ27、8歳だった。あれから四半世紀も過ぎた。

DUCが7年目に生まれたのが Can You Still。その歌詞の「7年やってあと7年」はジェイコブの物語だ。


今回、うだめぐから「15年目ですよ」と知らされ、7+7にもう一年が加わったことを知った。何年目かを自分では数えないようにしてきたのかもしれない。


自由の森学園で体験した凄まじい合唱の力。それを追いかける中で出会ったゴスペル。そして、地声コーラスこそが古今東西人の生活に必要なものであるのにそれが教育現場から失われていることを学んだ国立音楽大学講師のキャリア。
ゴスペルルーツの非宗教コーラス、パワーコーラスの夢は続く。


ジェイコブのストーリーになぞらえれば、そろそろ神と取っ組み合いの喧嘩をする時なのかもしれない。

感謝の気持ちを込めつつ、現在のメンバー & 元メンバーで今回の出演者を古い順から並べてみる。

愛子
[休]有美
[休]Motty
[休]マオ
うだめぐ
[ミュージシャン] まっつ
[ゲスト] 千葉純平
Tomie
ひいろ
陽平
juo-
ヤンマー
はるこ
Kokeshi
Nanako


心に刻まれた、ここには名前をあげない元メンバー達にも感謝を込めて。

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