パーカッショニスト佐藤由と「大ザル」の記憶(DUCジブリメドレーアレンジノート)

ヤマハドラムのエンドーザーでもあり、今や日本を代表するラテンバンド「オルケスタ・デ・ラ・ルス」のメンバーともなった佐藤由。彼との出会いはもう15年以上前になると思う。

僕のボーカルの生徒が自分で渋谷の小さなライブハウスを予約しライブをしたのだが、そこに連れてきたのが彼だった。ベーシストが連れてきた形だったので、ボーカルの彼もそこで初めて由くんと会った。

明らかにハンサムな彼は、カホンを中心とした楽器類をカートに積んでカラカラ転がしてやってきた。が、他の楽器が見えなくなるような大きなザルがその上に乗っていた。いわゆる梅干しザルのようなものだ。

「初めましてよろしく。それ何?」と挨拶すると「波の音を出そうかと思って。」と言う。

会場に入ると、布製の巾着から小豆をざらっと出してザルに開け、大きな布でザルを覆った。海に関する歌のイントロで、僕のキーボードの背後に波の音が流れたのだった。

誰か頼んだわけではない。というか、波の音を出してくれなんて注文を初対面のパーカッショニストにする奴はいない。

この印象は強烈だった。明らかに彼が「音楽全体のことを考えていた」からだ。

彼のような外注で仕事を受けるドラマーやパーカッショニストは通常、頼まれた自分の演奏をすることに集中するもので、音楽全体がどうなるかについては責任を負わないのが普通だ。それで雇う側であるボーカルやバンドリーダーは孤独を味わい続ける。

外注のパーカッショニストが楽曲の内容を学び、その仕上がりについて、「ベストなサポートの仕方を工夫してきてくれる」などと言うのは初めて見た。

(はっきり知っておいてもらいたいが、多くのケースで、ボーカルやリーダーが企画や人気上は上に立っているというのは「孤独」という巨額の代償を払っているのだ。)

その上彼は、演奏が上手だった。

僕はできるだけ多くの仕事を彼に頼むようになった。以来、日本中、果てはジャマイカまで、あちこちずいぶんともに旅をしている。また、DUCとしても立ち上げから、ドラム/パーカッションの必要なほぼ全ての公演で共演してもらっている。

今回、コロナ禍でライブが難しい中、「動画でこそできる作品」を検討した。DUCの動画チームからジブリメドレーの案が上がってきた中で、ライブでは不可能な、由くんに次々楽器を持ち替えてもらう形が浮かんだ。

長い付き合いの中で、彼が何をどんなふうに演奏できてそれぞれがどんな音を出すのかはありありと想像できる。アレンジの筆は進んだ。

曲順については動画チームからの指定があったので、それに沿って進む。


君をのせて

まず、由くんの本分であるラテンパーカッションから始めたい、と言うのが着想だ。ちょうど僕は基地内のスペイン語礼拝で演奏していた頃で、その礼拝ではラテン系の賛美楽曲を取り扱うことも多かった。そこで浮かんだテンポ感にエンディングの「僕らを乗せて」を繰り返すと、大体曲想は出来た。ここまでの着想ででAIのドラマーを鳴らし、それにのせて歌うと、メロディーの変奏はすぐに決まった。スペイン語礼拝の牧師に確認してイントロのスペイン語を確定。あとはスムースだった。

いつも何度でも

実は由くんはディズニーのパレードや海外のマーチングイベントへの参加などで、歩きながらスネアドラムを叩くマーチングも手慣れている(実はDUCのメンバーがハワイでスネアを叩きながら行進している由くんに出くわしたことがある)。クワイアーがユニゾンとハーモニーをこまめに行き来しながら3拍子の2拍目のアクセントを出してゆく形とマーチングスネアの印象は頭の中で簡単に融合した。

やさしさに包まれたなら

この曲はもともとアカペラ用にアレンジしていたが、その演奏の機会はコロナ禍でなくなってしまい、一度もアカペラでの演奏をしないうちに今回その焼き直しとなった。DUCの学校公演などでは僕のピアノとカホンと言う2人編成が基本で、メドレー内に必ず入れようと思っていたその形の演奏は、この曲しかないだろうという消去法で適用した。1小節単位くらいの短いスパンでの由くんソロも実はDUCライブではお馴染みで、この曲にはそれを織り込みやすいセクションがあり、一石二鳥となった。

もののけ姫

ジャンベ。当初からその一択だった。ジャンベはアフリカの楽器で、映画は中世の日本をイメージした幻想世界が舞台だが、根元の着想は「そこに人間がいなかったとしても存在したであろう音」を奏でてくれるだろう、という思いだ。

由くんは僕とは真逆のミュージシャンで、僕は自分を「冬型」、由くんを「夏型」と呼んでいる。「厳しい自然の中で人間としての創意工夫がなければ生き抜けない」のが僕の音楽で、「豊かな自然の中で生かされているので人間はその自然の波長をそのまま拾えばいい」のが由くんの音楽のように感じる。セセというジャンベについた「耳」や、鳥笛やアンクルビーズと呼ばれる楽器は当然、由くん側からの提案。

となりのトトロ

「汗をかくようなドラム演奏」も彼の本領であり、ハードロックで行こう、という着想が先にあった。そこにとなりのトトロと言う楽曲を利用させてもらった感じだ。流石に短い演奏なので汗にまでつながらなかったものの、映像録音同時一発どりでミスひとつない演奏を聴かせてくれた。


オリジナル楽曲によるアルバムもリリースし、自身のライブは完売の連続。コロナ禍の中でも多忙なオルケスタ・デ・ラ・ルスもあり、忙しくなる一方だが、末長く僕の音楽に付き合ってもらいたいものだ。

佐藤由 オフィシャルウェブサイト:

https://yu-sato.jimdosite.com

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