「良い一年だった」の思いに嘘なし – 音大講師1年目

しくない合唱なんかになんの意味がある。授業としての合唱だって同じだ。


合唱は、表現力、発声、理論、指導法の総合学習だ。少なくとも僕は、大学で最も楽しく最もためになる授業を展開する予定でこの教壇に立った。総括する。




学は4月を休み、5月からオンラインで始まった。7月には対面授業が始まり、400人のホールに40人。距離を取り、マウスガードをつけ、感染者数が増えてきたラストは不織布マスクで行われた。

ンライン授業には思わぬ恩恵があった。学生全員の個別の声を聞くことができたのだ。全員がスマホを持っている現在、歌っている動画を提出させるのは簡単だった。これで、誰がどのような声を持っているのか聞くことができた。

オンライン授業は、「ストリーミングとしては40分程度で切り上げ、残りの課題は提出物などでこなすように」と大学から指示があった。これは、「WiFi容量が十分ではない学生や長時間の画面の注視の疲れに配慮したもの」だという。ちょっと解せない部分もあったものの、これも吉に出た。ストリーミング後、Zoomで相談のある学生やさらに突っ込んで学びたい学生と言葉をかわすことができた。ここで、学生の個性を収集することができた。「テレコーラス/リモート合唱」を作成することで、前期の成果を形で残すことができた。

めて対面で実物の学生と顔を合わせた時、合唱の授業だというのにそれぞれの個性がわかった。その後の授業は、まるで一人一人と言葉を交わしているかのように感じながら進めることができた。

それから当然、会ってハモる、という喜びもひとしおだった。

なんだったら来年も最初の二ヶ月くらいオンラインがいいんじゃないか、などと本気で感じたものだ。

期、毎度学生ごとに個別に包まれた人数分のマウスガードと消毒ティッシュを大きなバッグに入れて教室に向かう。
毎授業ごとに強くなる声と笑い声を楽しみながら授業を進める。

しかしなんとも、10代20代が死ぬことのないこのウイルスに対し、学生たちの危機感は薄い。ハグし膝に座り合う女子たちに、互いに触るなと注意し続ける。
「空気感染するんでしょ? もう何したって無駄じゃん」という彼女らの言い分に対し、こちらも適切な反論を持ってない。
「自分の危機」ではない以上、彼女らの意識を変えるには啓蒙が必要だが、政府が旅行を推進し首相がマスクなしの会食三昧の国でそんなことを望めるわけもないか。

方の学生には家族から止められて授業に出られない者もある。そんな学生のために授業にカメラを置いてのオンライン配信も大学から義務付けられている。つまり、大学はこの時点までに「感染に対するケア」ではなく「感染を心配する学生に対するケア」に軸足を移している。

が学生の時の記憶では、合唱を楽しむ学生の比率は低い。他の大学ではどうなのか知らないが、多くの学生にはピアノや声楽が優先課題で、そこで良い成績を上げる必要がある。
成績の判断基準もよくわからず、目に見える自分の能力の向上も感じられない割に、覚えなくてはならないこと(特に歌詞!)が多い合唱は、あまり好かれない。

しかし、(繰り返しだが)楽しくない合唱なんかになんの意味がある。
学びとビートとハーモニーが同居すれば、楽しくないわけなんかない。

どこまで全員が楽しんでいたかはわからないが、出席率と集中力は高い。
最後に暗譜させるには苦労したが、無事に全員が楽譜なしのコンサートを迎えた。

直に言って、シンガーが楽譜を見ながら歌っている音大系の合唱にはゲンナリする。口が悪くてすまないが、「こんなもの聴きたいやついるのか」と思う。音楽の表現の指導なんて楽譜が外れたところからじゃなきゃ始められるわけがない。学生が本番で楽譜を持っていることに「指導者が妥協しているから」以外の理由は感じられない(もちろん、自分が学生に楽譜を持たせるときもあるだろうから、そういう意味でも。)

備してきた12月のイベント「合唱の夕べ」は、感染者数の増大を受けて中止になった。僕のクラスは幸いにもホールで授業を行ってきたため、その場所で授業時間内に仮想コンサートを行うこととなった。

ここまで準備してきた学生たちは、コンサートで予定していた通りの服と100均のクリスマスカチューシャを身につけて集まった。
マスクで顔も見えないコンサートで、このカチューシャは華やかでよかった。

「僕の教えた合唱は、みんなが知っているものと違ったと思う。来年(違う先生で)やるものとも違う。でも、学校の合唱は問題を抱えてる。アンケートなどでも顕著なのは、男子の多くが合唱を好きじゃないんだ。女子の過半数が合唱を好きだとしてもね。」
うなづく学生たち。
「男子の多くは、自分が出している声や出したい声と先生が求める声が違っていると感じる。」
女子の一部もそうだろう。
「いつかみんなが現場で授業の運び方に行き詰まったら、僕が教えたコーラスのことを思い出してほしい。あと、よければ、人生に行き詰まった時にも、このコーラスを思い出して欲しい。またいつか、みんなと歌える機会に恵まれることを願ってる。」

あとで感想を送ってくれた学生もいて、内容は嬉しいものだった。
あとで文句、というのは幸い今の所きていない。

のコーラスを大学に持ち込むことに批判的な意見がきっとあるだろう。でも議論を挑まれたら、僕にとっても一年目となったこの学生たちが出してくれた声と笑顔が、僕の論拠になる。

Covid 19 ウイルスは、この星の支配者は人類じゃないことを人類に思い知らせてくれた。地上で狼狽しているのは人類だけで、他の生き物たちすべてにとってはなんとも素晴らしい息抜きがやってきた。

僕も最初はうろたえた。でも今は、なくてはならなかったシーズンだと心から感じる。
失ったものもある。それが悲しくないってことはない。でも、今年はいい年だった。その思いに嘘はない。

僕も地球に生きる生物として、この変化を喜んでゆこうと思う。

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