「まれ」に出来レース登場。僕が出来レースに出くわした話。

シルエット女性家族が朝ドラ「まれ」を見ていて、「出来レース」についての話だった。

僕も、学生の時音楽制作の仕事で入った現場で出来レースに出会ったことが ある。当時大きなキャンペーンを打って売り出し中のテレビゲームのキャンペーンガールを決める公開オーディションの決勝だった。場所は高級そうに見える都 内のホテルの一室だった。10人ほどの綺麗な女性たちが緊張した面持ちで控えていた。審査員席にはいくつか、テレビで脇役で見たことのある俳優の顔があっ た。
オーディションが始まる前、制作の依頼主であるプロダクションの社長が控え室で、僕の上司にあたる人物と、今日の優勝者となる女性の自慢話を していた。自分が見つけてきた素材であること、彼女の今後のプロモーション方法についてのこと。僕の上司は普段見せないような笑顔で「へえ!」「超かわい いっすよね!」「すごいっすね!」などの業務的なあいづちを連発していた。

あまりに当然の事を話す日常会話の雰囲気で、同室にいた僕に口止めする気もないようだった。

オーディションは当たり前のようにその女性が優勝。僕はその瞬間、淡々と優勝時に指定されていた音楽を流した。

社長は、その後行方をくらませた。なにやら借金を残したらしい。僕のその日のギャラはその後2年支払われなかった。

その時は、なんとも思わなかった。そういうものなのだろうと思った。
でも、後になって、優勝した彼女以外の美しい9人の女性たちを思い出す。彼女らが抱いた夢と、そこにやってくるまでにかけた時間や労力やお金の全ては、裏切られていたのだと会場を離れてからやっと思えたのだった。

僕は、オーディションを信じなくなった。
コネを、卑しいものだと思うようにもなった。

誰かに気に入られ、プロモーションしてもらい、勝ち抜くためにPRを利用する。
そうしてその日には優勝した彼女が今どんな人生を送っているかわからない。もちろん、その彼女にも勝ち抜こうと必死に歩んだ人生があっただろう。でも、僕は自分の成功の夢を彼女に重ねることはできなかった。僕は自分の姿を、残りの9人に重ねた。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です